きりしまのなぎ

おっおっおっ

泡じけた夏


冷房と本の匂いがかけたグランジフィルター

ある日が残した影が消える前に

くぐもった音で目を覚ます

 

途切れ途切れの特別な呼吸

ネオン街は朝日にやられて味がしない

今度は自転車盗んで二人乗りしよう

僕達の青い匂いは誰かにとっての苦い記憶

 

暑さで鈍った爪で静かに傷をつけていく

夜31時まで続く平凡な呼吸

 

2019/05/27

 

明日あたりはきっと春だ

かえったら多分カレーだ

世の中は案外 深刻じゃない

金がなくてもカードがある

払えなくても待ってくれる

世の中は案外 深刻じゃない

渋谷がなくても横浜がある

調味料がなくても西陽がある

深刻じゃない

蕎麦屋のカレーはおいしいし

 

2019/03/02

 

プラネタリウムの方が綺麗

線香花火でもあるまく後腐れあるし

打ち上げ花火は上から見るし

浅くて狭い話を毎晩しよう

モスコミュールはウォッカ抜きで

花火というより火花

傷の跡をなぞらえて

真春のペンで殴り書こう

本当はコーヒーも冷めきってるんだけど

君の髪色は明るくて

もう夜も明かせない

黒より黒く透き通る影が邪魔して

口にしないで

目にしないで

始めなければ終わらないから

壊さなければ永遠だから

 

2019/02/27

三年間

一週間前、旧友に会った。

 夕方、バイトまで何もすることがないので雑司が谷をふらふら歩いていた。ポケットに手を入れながら線路近くを歩いていると、遠くに見慣れた顔があった。僕が目を下に向けながら手を振ると、あちらもそれに返してくれた。髪が少し短くなっていた。

 僕たちはそれからしばらく歩いて昔よくいた喫茶店に入った。そこは、陳腐な言葉だがいかにも昭和風といった感じで、高校生の僕たちが背伸びをするには十分な場所だった。少し塗装の剥がれた椅子に座ると、僕は昔よく頼んでいたストレート珈琲のキリマンジャロを注文した。すると、僕の旧友はすかさずブルーマウンテンを頼んだ。なんだか少し寂しいような感じがしたが、三年間と一緒にそれを飲み込んだ。

 

 他愛のない話。

 そんなによく覚えていない。何があったとか、あいつがこうだとか、そんなこともあったねとか。

 

 口寂しさは飲み込めなかったので僕はタバコに火をつけた。古風な喫茶店でタバコをくゆらせるという「いかにも」な行為に気恥ずかしくなったが、こんなカッコつけかたをする小物感もらしくていいじゃないかと妙に合点した。タール21mgを思い切り肺に吸い込む。すると旧友は僕に向かって笑いかけながら、小さなバッグからCamelを取り出した。僕の真似をするように旧友もそれを深く吸い込んだ。少しびっくりしたが旧友の赤みがかった微笑になぜか納得してしまった。

 

 

そういえばこの人は、昔、僕の一番近くにいた人だと思い出した。

 

 

 店内ではちょうどBill EvansのMy Romanceという曲が流れていた。昔ここでよく聴いた曲だ。

 昔した約束を、彼女は覚えているのだろうか。

 

 

2017/11/23